おっ、ぱやぱやくんじゃん。
旦那の机にぽつんと置かれていたのは――
あのネコキャラでおなじみ、防大出身、元幹部自衛官の“メンタル本”。
X(旧Twitter)ではフォロワー約30万人の人気者らしい。
中身はというと、
「世の中は戦場だ」
「テロリストの見分け方」
「防空識別圏を設定せよ」
……とまあ、物騒な見出しが並んでいるけど、要するに対人関係の防衛マニュアルらしい。
現実の旦那ときたら、
交友関係:スーパーとドラッグストアの人、あとは謎の「何かもらってくる」活動
任務:三女・ワシへの兵たん補給、自宅警備、いびき砲の発射係
ページをめくる旦那の目は真剣だった。
「開き直り」
「真剣勝負したら、負け」
「業務押し付けミサイル」
ページをめくるたびに、うなずく、うなずく、うなずく――
たぶん脳内で転勤前の職場がリプレイされている。
“心のゲリラ戦”はまだ終わっていないらしい。
それでもワシには見えている。
毎朝起きて三女の弁当を作り、
ワシが空のご飯入れの前で鳴くたびに、
「カルカン18歳から」をちゃんと出してくれる――
それがワシらにとっての“信頼関係”なのだ。
人間には人間の戦いがある。
だが、ワシは静かにこう言おう。
「防空識別圏? せいぜいワシらの生活だけは死守してくれよ、隊長殿」