すったもんだの末、ついに「りんご」が届いた。
あの、光るマークの、未来感まるだしのやつ。
旦那は喜び勇んで箱を開け、最先端の梱包をパリッとむいて、机に置いた。
そこまでは完璧だった。そこまでは、にゃ。
次の瞬間――
「…マウス刺すUSBがない…」
ほう、そりゃそうだろう。
ムダを極限まで削ぎ落としたスマートマシンに、昭和マウスの受け口など残っているわけがない。
昭和マウス世代が、Z世代パソコンを前にして固まっていた。
明らかに、頭のてっぺんから湯気が出ていた。
手元のマウスを見つめるその姿は、もはや絶滅危惧種の祈りの儀式である。
そこから始まる、未確認生命体「トラックパッド」との格闘。
「W」の世界とは全く異なる環境…。デジタル異文化体験に
肩は上がりっぱなし。
横で毛づくろいしながら、「これは明日、間違いなく肩凝るな」と確信した。
ふと見ると、ゾンビのように動く旦那の指。
まるで、生まれて初めてツチを掘るモグラのような動きで、りんごをなで回している。
四苦八苦の末、YouTube（動画リンク）を開いたようだ。
画面から聞こえるのは、穏やかに設定方法を教えるお姉さんの声。
「ゆっくり丁寧で…やさしいなぁ…」
と、独り言をつぶやきながら、トラックパッドの沼に沈んでいく背中。
りんごを腐らせないなら、いいのだが…
