「世界中を旅したけど、ここがいちばん落ち着く」
そう言ったのは、この島に暮らすイタリア人と日本人のご夫婦。
生まれも育ちも、この島とはまったく無縁。
でも今は、小さな家に畑のある暮らしを、心から気に入っているらしい。
「なぜ、ここに?」
と誰もが聞く。
そのたびに、ふたりは笑ってこう返す。
「海が青くて静か。人がやさしくて、食べ物がおいしいから」
……なるほど、たしかにこの島は“静か”だ。
でも、その静けさはただの田舎の静けさじゃない。
人と人の距離感がちょうどよく、
何もしない時間を許してくれるような、柔らかい空気に包まれている。
バスの本数は少ないけれど、
それは人手が足りない中で一生懸命守られているリズム。
海の便は時折欠航するけれど、
そのぶん「今日はなにもしない」が許される土地。
便利じゃないけれど、
「ここで生きたい」と思わせる、何かがある。
ワシ(猫)には正直、青い鳥は見えない。
でも、朝の光と潮の匂いと、
押し入れで食べる「18歳からのごはん」の味だけで、
なんとなく“間違ってない”と感じるのだ。
きっと青い鳥は、
無理して求める“特別な場所”にいるのではなくて、
自分で決めたこの場所に、そっと羽を休めている。
それが島の魅力なんだと思う。
縁もゆかりもなくても、帰ってきたような安心感。
今日もまた誰かが、ここで暮らし始める。
名前も知らない誰かの足元に、静かに青い羽が落ちているのかもしれない。