本土の港にある、ちいさな立ち食いうどん屋。改札のすぐ横で、フェリーの時間まで、ちょっとだけ「ほっ」とできる場所。 目立つ位置に掲げられたメニュー看板には、「五色うどん」の文字。赤・黄・白・緑・茶――五つの具材がのっていて、栄養も、縁...

精神保健福祉士の資格を目指す奥さんは、ただいま通信教育で勉強真っただ中。このあいだ戻ってきたレポートの添削結果に、家族みんなで「おお〜」と声が揃った。 テーマは「統合失調症の陽性症状が落ち着いたあとの社会復帰」について。しかも「社会...

この日は家族3人で滝を見に行った。高速道路のパーキングエリアで、ひと休み。そのとき、旦那のスマホに教頭先生から電話がかかってきた。 対応したのは奥さん。助手席で、穏やかにやりとりしていた。新学期に向けての話だった。 ――学校の...

本土に一時帰宅した旦那（＝飼い主）、朝からなにやら腰をさすりながら「調整に行ってくる」と言い残し、出かけていった。 ……調整ってなんや？温泉か？とワシ（＝猫）は思ったが、どうやら「カイロプラクティック」らしい。しかも、腰の治療なのに...

前日、三女はひとりフェリーで帰っていった。夏の一時帰省――というには、少し訳アリな帰省だった。 仕事を休んだ母とともに、未成年専門の精神科へ。いわゆる「醜顔恐怖」や「対人疲労」的な、思春期によく見られるメンタルの揺れ。 ――が...

朝、ワシ（＝猫）が水を飲んでいると、三女が部屋で倒れ込んだ。 腹を押さえてうずくまり、顔は青白く、まともに歩ける状態ではない。慌てて布団ごと抱きかかえ、車に乗せ、急いで病院へ向かった。４月にも、同じように突然症状が悪化し、救急車を呼...

三女は学校を休んだ。 友達関係でちょっとゴタついて、気持ちがふわふわと落ち着かない様子。無理に話すわけでもなく、ただ静かに布団にくるまっていた。 夜、旦那が言った。「星見に行くか」 車を出して、山頂の空が開けた場所へ。空...

今日の旦那、朝から妙に張り詰めていた。理由は、仕事で２次離島へ出張。しかも、天気はあいにくの荒れ模様。 「午後の船、欠航するかも」と、出がけに言っていたが、その時点でフラグは立っていたのだ。 まずは朝の任務。終業式の日なのでお...

「ねえ、お父さん、誰に入れる？」 夕飯後、ふいに三女が聞いた。 「うーん…やっぱり猫の生活まで保障してくれる政党かな」 と旦那。冗談なのか本気なのか、けむに巻いたまま、カルカンを器に盛ってくれる手つきだけは、やたら丁寧だ...