🐾しょんぼり標本、島で発光す

鳴けば動く便利なやつら

島に来て、旦那がちょっとずつ変わってきた。

前は、まるで「おっさんの標本」。
元気があるわけでもなく、消えかけの蛍光灯みたいな目をして、家の中をぼんやり漂っていた。

けれど最近――なんか、目が光ってる。
たぶん、島の空気と魚の脂と、あと“ちょっぴりの達成感”のおかげだろう。

この島は、とにかく人が少ない。
本土と違って、どの現場も人手不足。逆に言えば、誰かが動けば、それがすぐに見える。
ひとりの動きが“島中ニュース”になってしまうくらい、目立つ。

旦那はというと、日中ひとりでうろうろしている。
なにしてるかは、相変わらず謎。でも、ときどきこう言う。

「ありがとう、って言われた」

ほぅ。どうやら、“うろうろして、何かもらってくる係”は、
人の役にも立っているらしい。

島では、ちょっと動けば目立つし、
ちょっと頑張れば、感謝される。
本土では「空気の一部」みたいに扱われていた旦那も、
ここでは“ちゃんと見える誰か”になっているのだろう。

昔はどうだったかというと――
組織にしばられ、
何を提案しても「前例がない」と跳ね返され、
何か行動すれば「勝手な判断」と怒られる。

そりゃあ、心もしぼむわな。

でも今の旦那は違う。
自分で考え、自分で動き、誰かに感謝されている。

その「ちょっとの手応え」が、
50を超えた人間をピカッと再点灯させるらしい。
LEDじゃなくて、昭和の蛍光灯方式でも、点けば光るんだな。

ワシから見れば、相変わらず
「うろうろして、なんかもらってきた」という謎報告しか聞かんが。

それでも――
毎日、いそいそと「カルカン18歳から」がちゃんと出てくるたび、
ワシもちょっと、誇らしく思っている。

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