島に来て、旦那がちょっとずつ変わってきた。
前は、まるで「おっさんの標本」。
元気があるわけでもなく、消えかけの蛍光灯みたいな目をして、家の中をぼんやり漂っていた。
けれど最近――なんか、目が光ってる。
たぶん、島の空気と魚の脂と、あと“ちょっぴりの達成感”のおかげだろう。
この島は、とにかく人が少ない。
本土と違って、どの現場も人手不足。逆に言えば、誰かが動けば、それがすぐに見える。
ひとりの動きが“島中ニュース”になってしまうくらい、目立つ。
旦那はというと、日中ひとりでうろうろしている。
なにしてるかは、相変わらず謎。でも、ときどきこう言う。
「ありがとう、って言われた」
ほぅ。どうやら、“うろうろして、何かもらってくる係”は、
人の役にも立っているらしい。
島では、ちょっと動けば目立つし、
ちょっと頑張れば、感謝される。
本土では「空気の一部」みたいに扱われていた旦那も、
ここでは“ちゃんと見える誰か”になっているのだろう。
昔はどうだったかというと――
組織にしばられ、
何を提案しても「前例がない」と跳ね返され、
何か行動すれば「勝手な判断」と怒られる。
そりゃあ、心もしぼむわな。
でも今の旦那は違う。
自分で考え、自分で動き、誰かに感謝されている。
その「ちょっとの手応え」が、
50を超えた人間をピカッと再点灯させるらしい。
LEDじゃなくて、昭和の蛍光灯方式でも、点けば光るんだな。
ワシから見れば、相変わらず
「うろうろして、なんかもらってきた」という謎報告しか聞かんが。
それでも――
毎日、いそいそと「カルカン18歳から」がちゃんと出てくるたび、
ワシもちょっと、誇らしく思っている。