この日は家族3人で滝を見に行った。
高速道路のパーキングエリアで、ひと休み。
そのとき、旦那のスマホに教頭先生から電話がかかってきた。
対応したのは奥さん。助手席で、穏やかにやりとりしていた。
新学期に向けての話だった。
――学校の授業、クラスの外からのリモート参加も可能。
さらに、医師の指示があれば、家庭からのオンライン授業も選べる。
「少しずつで大丈夫ですよ」
教頭先生のその一言が、妙に心に残った。
少しずつ。そう、うちの三女には、いつもそのペースがちょうどいい。
滝の入り口に着くと、駐車場から森の小道を歩いて行く。
途中、三女は無言だったけど、ときどき立ち止まって、木々を見上げていた。
そして滝。
水音が聞こえてくる。想像以上の音量に、最初はびっくりした。
それでも、どんどん近づいていくと、
滝のすぐ下まで行けることがわかった。
水しぶきが舞っている。
そして、そこに吹いていた風――。
顔に当たった瞬間、「あっ」と声に出そうになるくらい、ひんやりしていた。
この風は、滝の水が作った風なんやな。
勢いよく落ちる水が、空気を巻き込んで、下に向かって風を運ぶ。
人工じゃない、自然の風。
しかも、ちゃんと冷たい。
こんなに暑い日なのに。
三女も、無言のままその風に顔を向けていた。
目は少し細めていたけど、怒ってるわけでも、悲しんでるわけでもない。
ただ、ちゃんとそこにいる。
ちゃんと、風に吹かれている。
ワシ(=猫)はお留守番だったけど、たぶんその場の空気は、
ちょっとだけ「だいじょうぶ」って感じがした気がする。
言葉で全部わかり合えなくても、
水の音や、滝の風が、何かを伝えてくれているような――
そんな日だった。