うちの旦那は、やたらと“ヘンな知り合い”が多い。
先日もそのうちの一人が突然やってきて、宇宙人の人形を置いていった。
「できたよ」と、まるで宅配便のようなノリで。
どうやら、旦那が頼んでいたらしい。
曰く「御利益があるんだって」。…ほほう。
この制作者、ただ者ではない。
26年前から“宇宙人”を作り続け、今や倉庫に50体。
常に「ヒロシ君」という名の宇宙人とセットで行動している。どこに行くにも“二人”。
しかもガチで“セット”だ。
東京にも、ヒロシ君と「二人」で行く。
カフェでは、たまに「そちらの方に」とサービスでコーヒーが2杯出てくる。
居酒屋では2席分。興味津々の見知らぬ客が話しかけてきて、「おごってくれる確率が高い」
「ヘンなやつと思う人は、ユーモアがわからない人。
だから、面白い人とばかり知り合いになれる」と、ご本人はご満悦。
なんだろう、この謎の引力。
ある日、武道館級のロックバンドのメンバーが“二人”を発見。
ガチファンそっちのけで楽屋に招き、「一緒に飲もう!」と盛り上がったという逸話もある。
空港でも有名人だ。
カウンターで「ああ、ヒロシ君ですね」と通される。
飛行機では必ず一番後ろの席。途中見つけた子どもが気になって落ち着かないからだそう。
到着先の空港スタッフには「〇〇さんが来る」と事前に情報が回り、お迎えが待っている。
もう、“異星人なのに地元密着型ゆるキャラ”である。
そんなヒロシ君の“兄弟”が、ついに海外進出することになった。
旦那の知人が香港に移住するというので、餞別代わりに宇宙人を作ってもらったらしい。
本人はおしゃれなプレゼントや現金を期待していたろうに。
呼び出されて、渡されたのは…宇宙人。
「これを…持ってくんですか…?」
と、呆然と立ち尽くす知人に、旦那は言った。
「いいことしか、起きないよ」
そして一言、「名前は自分でつけてね」と強引に押しつけた。
果たして、中国の厳しいセキュリティをくぐり抜けられたのか――不明。
その後、知人からの連絡は…ない。
名前は付いたのか。無事に到着したのか。
もしかすると、いま香港のどこかで、
小さなカフェの片隅に座って、2杯のコーヒーを並べて待っているのかもしれない。