旦那が、あの山本二三さんの作品展を見に行ったらしい。
『天空の城ラピュタ』『もののけ姫』『火垂るの墓』――
日本中の“あの景色”を描いてきた、美術の匠である。
帰ってきた旦那、開口一番。
「いやあ、アナログって、いいよな…」
何をいまさら、とワシ(猫)は思ったが、どうやら胸にくるものがあったようだ。
二三さんはビデオで、アナログをこう語っていたらしい。
「アナログとは、ゆったりとした時間のことなんです」
猫の生活のこと?
旦那いわく、会場には“描きかけ”の空や、
“途中の線が見える”森の風景があったらしい。
それら全部が、“完成”ではないけれど、
そこにある空気が、ふわっと“生きている”感じがして、じんときたんだとか。
そして、ふと気づいたらしい。
「島の暮らしって、どこか二三さんの絵に似てるな」
旦那がそうつぶやいた。
たとえば、時刻表はすかすかでも、
そこにいる人たちは“余白”の中でつながっている。
魚をもらったから、おすそ分け。
廃校になった図書館では「本、ご自由にどうぞ」。
港の立ち飲み酒場では、常連に交じって旅人がしれっと混ざってる。
全部、予定調和じゃない。
でも、どれも「切れてない」。
アナログ(Analog)は「連続」や「つながり」。
デジタル(Digital)は「区切り」や「バラバラ」。
完璧じゃないけど、どこかぬくもりがある。
この島の“ゆるいつながり”は、きっとアナログなんだなあ――と旦那。
そう言いながら、
「これも、なんか“連続”やな」と言って、
ワシの皿に、いつもの「カルカン18歳から」をきっちり盛る。
――ふらふらしてるように見えるけど、
案外、しっかりと地続きでつながっているのが、この人間たちの営みなのかもしれない。
そして今日も、ワシは押し入れで、アナログにまどろむ。